天才マルチ僧侶が創った戦争ゲーム

ー人工知能の時代に勝利する成功脳ー

語り手:遠藤 喨及(えんどう・りょうきゅう)

東京生まれ。少年期をニューヨークで過ごす。浄土宗和田寺住職、タオ指圧/気心道創始者、ミュージシャン、平和活動アースキャラバン等々で、世界を股にかけて活躍。海外でも、天才マルチ僧侶と言われている。個人ブログページ http://endo-ryokyu.com/blog/

インタビュアー:中河妙水(なりみ)

ゲーム NINJYA WARS

ニンジャ・ウォーズは、「チャトランガ」という戦争ゲームの簡易バージョンで、考案者は、遠藤喨及(えんどう・りょうきゅう)平和活動家の僧侶である。

一体なぜ、平和活動家の僧侶が戦争ゲームを考案したのか? その背景には何があるのだろうか?

極めてシンプルなゲームだが、任天堂の二代目社長には「ファミコンが出る前だったら、相当ヒットしただろう」と言わせ、元奨励会(将棋のプロ養成所)の人にも「奥深いゲーム!」とうならせたという。

”一体、チャトランガとは何なのか?” を長時間に亘って、考案者に聞いたのがこのインタビューでである。

チャトランガ HP:https://chatranga.com

目次

第1章 仏教と戦争ゲーム
第2章 ゲームで癒される
第3章 成功脳を創る
第4章 ゲームは精神文化
第5章 人口知能の時代に勝利する

第1章 仏教と戦争ゲーム

── 住職は、二十歳代の前半に自ら考案された、「チャトランガ」という戦争ゲームをライフワークとして開発製作してこられた、と聞きました。
任天堂の先代社長に見せたら、“ファミコンが出る前だったら、ずい分と流行っただろう”と言われたと聞いています。その上、ボード・ゲームを製作販売している別の子会社を紹介してくれる、とも言われたそうですね。

住職:ちょっと縁があったので(住職が創始した、「タオ指圧」という治療法の患者さんだった)、先代社長を通じて任天堂の開発部に見せたら、けっこう評価されたらしいのです。

──へぇー。

住職:ただ僕は、製品としてデパートや玩具店で売るだけでは、自分の意図していることとは違うような気がしたんです。単に“商品を売って終わり”ではなく、それ以上のことをしたかったのだと思います。

── それはどんなことでしょうか?

住職:例えば、チャトランガによって人と人がつながり、人々が現実でも友だちになっていけるようなコミュニティを創るとか、、、。実は当時から、”孤独な人を無くしたい”というのが、僕の大きな願いのひとつだったんです。

── 実は私、“どうしてお寺の住職が、戦争ゲームなんて考案したんだろう”って、最初は疑問を持っていたんですよ。“坊さんなら、戦争とかの野蛮なテーマでなく、もうちょっと 平和的なゲームを考えればいいじゃないか”とか。

住職:以前はよくそんな質問や批判を受けましたねぇ。ルール研究のために、友人と飲み屋で試験プレイしていたら、 偶然そこに来ていた、酔った知り合いの西洋人の女の子がいて、“そんなゲームを作るなんて、、、。 あんた恥を知りなさい!”なんて言われちゃったこともありましたからね。 ははは。

── なんとまあ、、、。

住職:ただ、面白かったのは、別のオーストラリア人の女の子が言ったことです。それは、“ダライラマの自伝に、「子どものころ、戦争ゲームを 創って遊ぶのが好きだった」という下りがあったから、私、何となくわかるわ”、というものです。

── へぇー、そうなんですか。

 

「戦争と平和」の反転・融合

住職:戦争というのは、人類最悪の蛮行ですよね。そもそも、殺されたい人も、見も知らずの相手を殺したい人も、普通はいません。

── そうですね。

住職:殺人は、あらゆる国家で犯罪とされています。それなのに、殺人を国民に実行させる戦争と死刑制度は、矛盾以外何ものでもありません。

── なるほど。

住職:仏教には、“相反するものが融合する”というコンセプトがあります。実は、このゲームを創り始めたのは、仏教の修行にはまり出してからなんです。それで、「戦争と平和」という相反するものを、反転・融合させたかったのではないかと、、、まあ今になってみれば、思うんですよね。

── ダライラマが子どもの頃、戦争ゲームで遊んでいたというのも、そうだと考えられていますか?

住職:そうだったら面白いですけどね。そういえば、ダライラマの親戚と2、3日ネパールを一緒に旅したことがあったんです。ダライラマって、 ずいぶん楽しい人らしいですよ。

── 写真で見ると、そんな感じですね。

 

将棋も僧侶が考案した戦争ゲームだった!

住職:国家の宣戦布告文って、国交断絶の宣言から始まるでしょう。

── 対話することをやめて、戦争という暴力の応酬をしてしまうのですね。

住職:仏教の哲理から言えば、相反するものこそ反転するし、融合が可能なんです。ということは、“戦争という最低の暴力的で非対話的なことをテーマにしたゲームこそ、平和を創る高度なコミュニケーション・ツール”となり得るということです。

── なるほど、、。

住職:将棋とチェスの原型も、古代インドで生まれた「Chaturanga」という 戦争ゲームです。高僧が、戦争好きの王様に戦争を止めさせるために考案して献上したのが始まりで、6~7世紀に発達したんです。

── 将棋(とチェス)の原型も、戦争反対の仏教僧侶が考案したものだったんですか!

住職:その僧侶の精神に敬意を表して、自分が考案した戦争ゲームに『チャトランガ』とネーミングしたんです。ところで、日本に伝播した将棋が盛んになったのは、平和が何百年も続いていた江戸時代です。その頃は、夕方になると、道端で将棋を指す人をみんなで取り囲んで、ワイワイやっていたそうです。

── なんとも、平和的な光景ですね。

住職:中国では、儒教の必須課目に「将棋」が入っていました。孔子は弟子たちに、音楽、将棋、書道、絵画の4つ(琴・棋・書・画)を学ばせていたんです。

── 中国でも、またチェスを「王者のゲーム」と呼んだ西洋でも、将棋/チェスは、上流階級の知的なたしなみだったそうですね。

住職:知的戦略ゲームには、脳内で人生をシュミレーションする働きがありますからね。

 

人生における選択と決断

── 将棋、チェスとチャトランガとの違いは、どこにあるのでしょうか?

住職:将棋もチェスも、高度な読み合いの知的なゲームですが、チャトランガのルールは、将棋に比べらたらよほどシンプルです。チャトランガでは知的プラス、直感やイメージを用いた読み合いになります。

── どうして、プレイヤーたちは、“ゲームとしての深さは、将棋に勝るとも劣らない。”と言うのでしょう?

住職:人生で選択と決断を迫られるのと同じような状況が、盤上に現れるからではないでしょうか。将棋には、偶然の入る余地がまったくありません。でも、サイコロを使うチャトランガは、偶然性の要素が入ります。知的な読み合いのゲームに偶然性が入ることで、戦場のようなスリリングさや、人生のようなリアリティが生まれたんです。

第2章 ゲームで癒される

 

── 「チャトランガはお互いの人生観で対話するゲーム」という複数の声を、プレイヤーから聞きました。これは、なぜだとお考えですか?

住職:戦場をテーマにしたゲームだからだと思いますね。戦場のような極限状況でどう行動するかは、各人の生き方が露になるんです。

──戦場の極限状況がとても良く描かれている映画がありましたね。「ヒトラー~最後の12日間~」という作品です。

住職:第二次大戦末期、ベルリンが陥落するまでの12日間を描いた映画ですね。

──ソ連軍が目前に迫って来ている中で、絶望したナチの幹部たちがやけ酒を飲んでどんちゃん騒ぎしていました。また、一般市民にまぎれて逃げ出す兵隊たちもいました。私が感動したのは、そんな中でも、最後まで責任をもって、市民を守ろうと骨身を惜しまず働き続けていた、将校や兵士たちがいたことです。やはりそういう極限状況の時は、それぞれの人間性というか生き方が出るんでしょうねぇ、、、。

住職:死ぬ時に後悔しないのは、最後まで責任を放棄せずに全うした後者の方だ、と思いますね。

── “チャトランガをプレイしていると、自分の無意識の深いところにある「何か」が、動いている感じがする”という人もいました。

住職:プレイヤーは、戦況全体を観て、兵士を死地に赴かせている司令官と、前線で死に向き合うという極限状況にいる兵士との1人2役を、無意識の中で演じることになりますからね。

──ああ、そうだったんですか。

住職:司令官と兵士の役割は、真逆です。司令官の勝利は兵士の犠牲を抜きにしてはありません。その一方で前線の兵士は、生か死かという極限状況に身をもって直面します。プレイヤーの無意識は、この相反する2つの役割を行ったり来たりするのです。

 

チャトランガは箱庭療法

住職:また、チャトランガで無意識が動くのは、これに箱庭療法的な要素があるからです。

──  「箱庭療法」とは何ですか?

住職:スイス人のユング派心理学者、ドラ・カルフが始めた心理療法です。砂を入れた箱に、ミニチュアの家や森や妖精や怪獣などの様々なものを置いて、作品を創るんです。

<箱庭療法> 
<龍安寺石庭>
──はい。

住職:スイスの箱庭療法のセラピストたちがグループで来て、京都の石庭を観たら、皆一様に「これは箱庭だ!」と言って感動していたそうです。

──へぇー!

住職:石庭は、観ているだけで心が瞑想状態になるようにデザインされています。チャトランガの盤上の森やビル等の配置も、石庭を創るような感覚で決めているのです。

──そうだったんですか!

住職:また、コマを進める動きには、プレイヤーの無意識が表現されます。だからカナダ在住の茂木謙知さんは、チャトランガをしているカップルのコマの動きを観て、二人の関係性までわかってしまうんです。

── 面白いもんですねー。

住職:日本で最初に箱庭療法をはじめたのは、ユング派心理学者の故河合隼雄さんです。河合さんは、子ども相手のプレイセラピーで将棋をすることもありました。クライアントの子どもが、抑圧されていた攻撃性を表現できるようになると、将棋の手も積極的になるそうです。

── チャトランガは、プレイセラピーのツールとして良さそうですね。

住職:女性の中には、“チャトランガをすると、自分の本質が現れるからやりたくない”という人もいます。でもそれは、「無意識が意識化される」ということなんですけどね。

── 「無意識が意識化される」というのは?

住職:抑圧された負の感情や心の傷に直面し、心の影を統合して、より高次の自己を実現することです。これは仏教修行の目的でもありますが、心の成長には痛みを伴うのが常です。だから、修行に挫折する人は多いのです。

── わかるような気もします。

 

ワイルド性が人を魅力的にする

住職:でも、抑圧された負の感情や心の傷に向き合うことは、人間にとって大切なことなんです。それは、内なる暴力性を意識化しないと、他者の弱みに対して優しくなれないからです。また例えば、先の河合隼雄さんの『中年クライシス』(朝日文庫)という本には、「ワイルドなところをもたない中年は、まったく魅力を失ってしまう」と述べられています。

──内なる暴力性という影を意識化し、全体性を獲得することは、人間が精神的に成長しより魅力的になるためには必要なことなんですね。

住職:だから人間は、対戦というワイルドな形を取るスポーツ、武道、また将棋などの文化を創り上げて来たのです。

チャトランガはセラピー

住職:先に述べたように、チャトランガは盤上にプレイヤーの無意識が表現されるから、お互いに共感し合ってプレイするなら、心理セラピーとして成立します。それを認識したのは、ずっと以前、沖縄の精神病院で働いていた時です。当時、僕は、入院患者さんたちへの指圧臨床と、職員への指圧指導をしていたんです。
その病院に僕を紹介してくれたのは、矢幡洋さんという心理士の友人でした。彼もチャトランガが好きで、よく一緒にプレイしていたんです。
面白いことに彼は、勝っても負けても、“あぁ、カタルシスがあったぁ、、、”と言って帰って行ったんです。
注*カタルシスとは、浄化作用を意味する心理学の用語。抑圧された感情を表現して、すっきりとすること。

── 矢幡洋さんと言えば、犯罪心理学者の人ですね。今で言う“癒された~””という感じなんでしょうね。

第3章 成功脳を創る

── 住職は、ご自身が立ち上げた海外支援NPOアースキャラバンの活動で、毎年バングラディシュを訪れていますね。現地の小学校や大学で行われたチャトランガ大会の写真を見たんですが、子どもたちも大人も、いきいきした表情をしていて驚きました。なぜバングラディシュの小学校や大学で、チャトランガ大会をしようと思われたのですか?

<小学校での大会。みんな真剣!>

<こちらは、大学での大会>

住職:バングラデッシュは、インド文化圏だからです。そもそも、インドにおける0の発明なくして数学の発展はありませんでした。0は、実際には存在しない概念としての数です。インド文化において数は、単なる物量を表すものではなく、イメージ、あるいは哲学的概念として宇宙を表現する「霊数」だったんです。

── なるほど。

住職:インドにはそのような文化的土台があるから、チャトランガに対する理解が早い、と思ったんです。

── はい。

住職:もっとも、数を霊として捉えるのは西洋も同じです。例えばラッキーセブンなどは、数に数量以上の意味を持たせているわけです。また定理で有名なピタゴラスは、単なる数学者ではなく、数理に基づいて宇宙の真理を解き明かす、ギリシア新興教団の教祖だったのです。

── え、あの直角三角形のピタゴラスが、ですか?

住職:IT革命も、0の発明なくして起こり得なかったことです。コンピューターは、0と1だけの二進法によって、すべてのデータが書かれていますから。また、世界最先端の数学を理解している人は、世界で4人ぐらいしかいないらしいですね。おそらくそこまで行くと、数理は宇宙の深遠な真理を読み説く哲学と変わらないでしょうね。

──世界で4人だけとは、、、何だか話がすごすぎて頭がくらくらします。

住職:数理的な人は、かえって霊的なものに向かうことが多いんです。湯川秀樹博士やアインシュタインもそうでした。数学者の岡潔(注1)にしても熱心な念仏修行者で、弁栄上人(注2)を最も尊敬していました。

*注1:岡潔は、世界的な発見をした著名な数学者。(1901〜1978)
*注2:弁栄上人は、明治大正時代に超宗派の念仏を説いた聖者。

 

未来を読み人生に勝利するには?

住職:基本的にゲームは数字で競い合うものです。しかし、数の大きさが、そのままカードやコマの強弱ではありません。例えば通常、トランプでは13(キング)のカードよりも、1(エース)のカードの方が強い。プレイヤーは1を”強いカード”というイメージで観ています。

── はい。

住職:チャトランガは、数理とイメージを融合させて、お互いの手を読み合うゲームなんです。それが人生でも未来を予測したり、戦略を立てることに役立つんです。

── 未来を予測するイメージ力や戦略眼は、一体どうしたら磨かれるのですか?

住職:常に成功・勝利という未来を前提として、現在の状況を観ることですね。その上で、その未来をもたらすには、どんな動き(行動)をしたら良いか(必要か)を考えるんです。すると、その未来に至る道筋や取るべき行動が見えてくるんです。

── 現在から未来を考えるのではなく、「未来から現在を考える」んですね。思考の順序を逆転させるんですね。

 

困難を乗り越えるのが人生

住職:時にはそこから生まれた行動が、直接の成功とは結びつかないように見える場合もあります。でも、未来の成功を前提として、結果を求めずひたすら行動し続けて行くならば、必ず次の展開が生まれます。そして、いつしか成功という未来の果実を得ることができるのです。

── なるほど。

住職:明るい未来がイメージできないと、行動がその場しのぎになります。そして、何かうまく行かないこと(障害)が起こると、“こんなこと、やってもしょうがないや、、、”という思惑が働きます。その結果、行動することを止めてしまうんです。

── はい。

住職:成功に至るプロセスで困難が起きるのは人生の常です。成功の過程で困難が起こるべく、宇宙大霊によって絶妙にアレンジ(天の采配)されているんですから。

── それは一体なぜなのでしょうか?

住職:人生の成功が、結果よりもむしろ“困難をいかに乗り越えたか?”にあるからですよ。

── ああ、そうだったんですか!

住職:チャトランガをプレイすることは、人生の予行演習をしているようなものなんです。困難を乗り越えることによって想いが必ず実現することを、プレイヤーはゲームを通して脳内シュミレーション体験するんです。

 

真の勝利者とは?

住職:相手のプレイヤーは、もう一人の自分なんです。チャトランガの試合は、武道と同様、相手との闘いではなく、自分との闘いを象徴しています。したがってチャトランガは、勝ち負けを超えた心の地平でプレイしていくものです。

── へぇー。

住職:勝ち負けを超えた心の地平に立つことによって、人は、真の人生の勝利者になるんです。

── そうかあ!

 

楽観的になることには意義がある

住職:状況は信念によって創られます。チャトランガでは、より強い信念を持って、リラックスしてコマを進めている側が、試合のイニシアチブを取ります。

──信念とは何ですか?

住職:ようするに、楽観的であることですよ。(笑)

── そうだったですかー!(笑)

住職:プレイヤーに信念、すなわち楽観性がないと、相手の出方にあたふたするだけで状況を創ることができません。でも、プレイヤーが楽観的で明るい未来を想っていると、コマ全体が、まるで明確な意志を持った1つの生命のように、統一された動きになるんです。

── へぇー。

住職:楽観的だと、たとえ追いつめられたような状況になっても、ユーモアを持って客観的に観ることができる。すると、状況を転換する思いがけない手を思いついたりします。そして次の一手で戦況ががらっと変わり、大逆転劇が生まれるのです。チャトランガも人生も、ユーモアが大事なんです。

── そうですねー。

住職:一手ごとにお互い状況が逆転し合う、なんていうこともよくあります。チャトランガは、自らの戦略によって、一手ごとに新しい状況や未来を創っていくゲームです。プレイヤーは、人生に必要な智慧がゲームによって磨かれていくんです。

 

困難に打ち克つことが人生の成功

── ゲームでのシュミレーション体験と実人生とでは、まったく別のもののように思えますが、その辺はどうなんでしょうか?

住職:無意識は、両者を同じものとして扱うんですね。箱庭療法のクライアント(患者)が、作品を創ることで人生が変わっていくのと同じ原理です。

── 人はどのようにしたら、過去の重しを飛び超え、新たな未来の展開を創造することができるのでしょうか?

住職:「未来の人生において自分は何を得るのか? そのために現在、自分が持っている何を手放す(あるいは犠牲にする)のか?」を明確にすることです。そもそもチャトランガは、人生における選択と決断をテーマにしたゲームなんです。

── オーストリアの医師、アリスさんも、”チャトランガは、まるで人生における選択と決断を体験しているようなゲーム”とおっしゃっていました。

6 Alice

 

住職:チャトランガも人生も、取捨選択と決断の連続だからこそドラマが生まれるし、そこが面白いのです。プレイヤーたちは、盤上で創るドラマを楽しんでいるのです。

──バングラデッシュの大学でチャトランガ大会が行われた時、住職は、”このゲームを開発したのは、人生で成功するための戦略と決断のスキルを、人々に磨いて欲しいと思ったから” とスピーチをされていましたね。

住職:だから、子どもたちにこそチャトランガを学んで欲しいんです。何があっても困難に打ち克っていくことこそが、人生における真の成功であることを理解して欲しいですね。

── 子どもたちには、人生成功の精神スキルを、早い内に持って欲しいですね。チャトランガは、何歳から始められますか?

住職:早い子で幼稚園からやっている子もいます。通常は、小学校1年でしょうか?

── わりと早くからできるんですね。

住職:多くの子どもたちは、このゲームに脳内人生シュミレーションの働きがあることを、直感で理解します。それは彼らが無意識に、これからどう生きていくか?という人生戦略を考えているからです。

──だからなんですね。ほとんどの子どもがチャトランガを喜んでプレイするのは。

第4章 ゲームは精神文化

 

住職:今は、お金さえあれば、人と関わらなくても生活できてしまう「お一人様」の時代です。今日本では、年間の「孤立死」が3万人。2040年ごろには、年間20万人が「孤立死」する、と言われています。

── (、、、絶句)何ともすごい数ですね、、、。

住職:そんな孤独なる「お一人様の時代」にこそ、一人ではできないもの、相手がいなければできないものが必要です。そもそも僕は、人と人が遊びによって楽しく語り合える、友だちづくりのツールを提供したくてチャトランガを作ったんです。

── チャトランガの「新しいコミュニケーション文化を創造する」というコンセプトは、そこから来ていたんですね。

住職:人々のコミュニケーション手段は、IT革命によって飛躍的に向上しました。実はこれ、大乗仏教の哲理を人々に無意識レベルで浸透させる、という副次的な効果をもたらしたんです。

── えー!? それは、どういうことなんでしょうか?

住職:かつてのコミュニケーションは、個から個へ、あるいは一方から一方にしかできませんでした。しかし電子メールは、リアルタイムで複数と複数が、互いに送受信し合うことができます。

── これは旧時代の通信手段では、あり得なかったことですね。今となっては、かつての状態を想像することも難しいですが、、。

住職:仏教で宇宙の実相(真理)として説いている華厳哲学では、「すべての存在は、相互に含み合って、瞬時に変化を与え合っている」と説いています。世界的な仏教ブームが起きているのは、メールのやり取りをしている人々の無意識には、この哲理が浸透していった結果なんです。今やグーグルですら、坊さんを呼んでワークショップをさせているのは、このためです。

──いやー、面白いもんですねー。じゃあ、チャトランガで「相反するものは根源において一つである」という大乗仏教の哲理が、プレイヤーの無意識に浸透される、ということなんですか?

住職:そうですけど、まあゲームという遊びを通してですから、仏教哲理の理解がユーモアをもって入るということですかね。

── ユーモアというところは、楽しくていいですね。

 

トランプは占星術から生まれた

住職:そもそもゲームには、精神文化を人々に無意識に浸透させる、という役割があります。例えば、西洋のトランプはタロットの簡易版で、占星術から生まれたゲームです。ローマ・カトリックに禁止された占星術やタロットを、トランプが人々の無意識に浸透させたんです。

── ああ、そうだったんですか。

住職:トランプは、占星術で重要な太陽の位置 (冬至と夏至)を、赤と黒のカードで表現しています。春夏秋冬という四つの季節は、スペード、ハートなど四種類のカードです。そして、太陽暦の1年(13ヶ月)を表しているのが、1(エース)から13(キング)までのカードなんです。

── どうして13ヶ月なんですか?

住職:1年はもともと、13ヶ月だったんですよ。月の運行は、28日を一周期としているから、それが自然なんです。

── ではなぜ、今は1年が12ヶ月しかないんですか?

住職:教皇グレゴリウス15世が、グレゴリオ暦(1年12ヶ月)を実施して、これが世界の標準時間として定着してしまったのです。

── 何だか残念ですね。

住職:トランプには52枚(52週分)のカードがあります。1週間は7日なので 52を掛けると364になります。(52X7=364) でも、1年は365日なので1枚分足りないんですね。

──あら。

住職:そこで1枚、ジョーカー(道化師)という、何にでもなれる“トリック・スター”的なカードを入れているんですよ。

※トリック.スター /秩序を破るいたずらもので、世界に新しいものをもたらす存在の象徴。ユング心理学で説く元型の1つ。学校のクラスに1人ぐらいは、トリックスター的な人物がいるものである。

── なるほど! それで1年、というわけですね。ところでチャトランガに、トリック・スター的なコマはないんですか?

住職:爆撃機と潜水艦のコマがそうです。両者は、トリック・スター的な活躍をします。世の中も日常に収まりきらないような人がいてこそ面白くなりますから。

── 映画「フーテンの寅さん」も、世の中の日常的な営みに決してなじめない、トリック・スター、寅さんがいるからこそ、面白いんですものね。

住職:空を飛ぶ「爆撃機」と、海に潜る「潜水艦」が入ったチャトランガ・ファイナル版をプレイすると、皆さん一様に、“まるで映画を1本観て、壮大なドラマを体験したような気分になる”って言われます。

 

囲碁は易から生まれた

住職:囲碁の意味も面白いですよ。碁は、陰陽の調和を説く「易学」を無意識に浸透させるゲームなんです。碁石が白黒なのは、「陰陽」を表しているからです。

──そうだったんですか!

住職:碁盤の中央のマスは「元気」(別名、天元)です。宇宙万物の根源的なエネルギーのことです。

──へぇー。チェスやチェッカー、またオセロ(実は、1888年にイギリスで商品化された「リバーシ」)も、白黒のコマを使いますよね。。

住職:西洋のゲームの白黒のコマは、「光と闇の闘い」を表しているんです。これは、「善と悪の闘い」の象徴で、キリスト教の異端であるグノーシス派が、”人類永遠のテーマ”とするものです。

──へぇー! 囲碁は易学で、トランプは占星術。チェッカーやオセロ(リバーシ)はキリスト教で、将棋とチャトランガは仏教。ゲームはまさに精神文化のエッセンスなんですね。
でも、ゲームがこれほど人生に大きな意味を持つことなど、普通、なかなか気づかないのではないでしょうか?

住職:現代は何でも商業主義になってしまっているから、ゲームを単なるおもちゃ(商品)と観てしまうからですね。でも、本来ゲームは音楽と同じように、人の無意識に浸透する精神文化なんですよ。

──そうですね。

 

自然界に絶対の強者はいない

住職:漢字文化圏では、一週間を、「日月火水木金土」と表現します。日月は陰陽で、火水木金土は五行。これは、中国の陰陽五行の思想が土台なんです。

──陰陽五行って、何なんですか?

住職:自然は陰陽(男と女など)が互いに支え合っていること。また、火水木金土が循環することで成り立っている、というものです。五行の関係性が面白いんですよ。例えば、“火は木を燃やしてしまうから木より強い。でも火は、水に消されてしまうから水よりは弱い”、と言います。

──自然界に絶対的に強い存在はない、というわけですね。

住職:ジャンケンでは、「ハサミは紙に勝ち、紙は石に勝ちますが、五行を簡略化したゲームだからです。チャトランガも「戦艦、駆逐艦、潜水艦」のコマが、ジャンケンと同じ力関係です。

──チャトランガも、五行を簡略化したジャンケンと同じく、絶対的に強いコマはないんですね。

第5章  人口知能の時代に勝利する

 

住職:将来、人工知能を持ったロボットと、通常の会話ができるようになります。感情まで含めた、真の対話ができなくても、それによって、人間がロボットに愛情を持つというよう なことも起こるでしょうね。

── へぇー。

住職:現在、現実の女性や男性でなく、二次元のアニメやフィギュアに対して愛情を抱く、いわゆる”萌え系オタク”と呼ばれる人たちがいます。ある意味、彼らは、”将来人類が、ロボットに対してどう愛情を抱くか?”というテーマに、人類を代表して、無意識に取り組んでいる先駆者たちです。

── そうだったんですか!

住職:ロボットと言えば、人工知能が入ってくれば、チャトランガのコンピューター対戦も、相当強いレベルになるでしょう。

── どんな試合になるのでしょうか?

住職:コンピューター側のプログラマーは、対戦相手の人間チャトランガ棋士の過去の試合パターンを調べた上で、闘いに臨むことになります。相手のチャトランガ棋士が慎重タイプかイケイケタイプかなどのデータを入れておくのです。人工知能と試合する人間プレイヤーは、自分自身と向き合うような気持ちになると思います。

── かなり面白い試合になりそうですね。

住職:人間は、これまでの自分とは異なった人生観や性格の人が指すような手を指す必要も出てきます。過去の自分のパターンを変えた手を打つのです。言わば、あたかも別の人間であるかのように装う(?)のですね。そうして人工知能の“読みをはずして闘う”のです。

── それは、面白い!

 

鉄腕アトムの時代が来る!

住職:これからますますAI (人工知能)が発達して、生活のありとあらゆるところにコンピューターのコントロールが入ってきます。やがてロボットが運転するタクシーも出て来きます。

── へぇー。

住職:今後、人工知能やロボットの社会に占める働きが、急速に増大していくことは確実です。自動車の運転などはほんの一部で、いずれ大変多くのことが、人工知能やロボットによって行われることになります。それによって、生活から産業構造まで激変します。
物理的な面だけでなく、結婚や就職のようなパーソナルなことの判断まで、人工知能に委ねていく、というようなことも起こります。

── それはいつ頃のことなんでしょう?

住職:思っているよりは早いでしょう。ライト兄弟の初飛行は1903年ですが、その頃は“科学者”に、「物が空に浮かぶわけはない」と言われていたのです。しかし、そのわずか66年後、人類は月に降り立ったのです。

── 「かつてSFで書かれていたことの7割が現実化している」と言う話は、何かで読んだことがあります。

住職:今後解析率は、量子コンピューターによって、日進月歩どころか秒進分歩で進んで行きます。ロボットは限りなく人間に近づいていきます。人工皮膚をまとう、まるで人間のようなロボットもいずれは生まれます。

── そうなると、見た目は人間と変わりないロボットが、様々なことを行うようになりますね。まさに鉄腕アトムの時代が来るということなんですね。

住職:当然その頃には、“一体人間は、自らの人生をどう主体的に創造していくのか?”が課題になります。

── 何だか怖いですね。

 

ロボットの気持を理解する!?

住職:話は変わりますが、チャトランガのコンピューター対戦をプログラムするミーティングを重ねていく中で、はじめて僕はAI(人工頭脳)がどのようにものを考えるのか、を少しだけ体験したように思いました。
コンピューターにチャトランガの定石を憶えさせるためには、イメージというあいまいなものでは、まったく通じないんですね。人間相手なら普通に通じるようなこと、たとえば「相手のコマの少ないところに向かって、多くのコマを進ませる」なんていう言語ではダメなんです。
イメージを数値に置き換え、言語化しなくてはならない。僕は、コンピューターがどう思考するのか、をイメージ(?)しなくてはならなかったんです。

── へぇー、、、。

住職:コンピューターは、イメージでものを認識できず、数値でしか考えられない。そんなAIの思考を想像する。人間がイメージで理解していることを、数値に置き換える。それを言語化して行く。、、、
僕にしてみたら、何だか、ロボットの思考を何とか理解する未来の人間になったような、不思議な気持でしたね。

── 面白いですね。

住職:もっともそれは、チャトランガのコンピューター対戦をプログラムする作業だったからかも知れません。同じ知的な読み合いのゲームでも、将棋だとそんなことはないのかも知れませんが。

 

将棋はニュートン力学/チャトランガは量子力学

── 将棋とチャトランガでは、読み合いにおいてどう異なるのでしょうか?

住職:将棋における読みは、“自分がこう動かしたら、相手はこう動かしてくる”と、原因と結果が明快なんです。読みの因果関係がはっきりしている。
将棋の読みを物理学に例えるならば、宇宙のすべてが因果関係によって説明できるとする、ニュートン力学ですね。
一方、チャトランガの読みは量子力学的です。因果関係だけでなく、偶然の要素まで読みの中に含めなければなりませんし。
最新の量子論では、偶然と必然に違いはないとか、全宇宙は有機的に関連しているとかまで言います。内容的には、ほとんど大乗仏教の哲理と変わりないです。

── へぇー!

住職:AI(人工知能)は、因果関係的にしか考えられませんし、“悟る”ことも“直感力を持つ”こともありません。ロボットが、どれほど見た目は人間に近づいたとしても、演技はできません。
もっとも、“こいつ演技しているな”、と人間に思わせるような言動ができるようにはなるでしょうが。
だから、たとえ将棋では、絶対的な強さで人間を圧倒するような人工知能相手でも、チャトランガの試合では、直感力を磨いた人間棋士なら十分に渡り合えるし、勝つことも可能です。

── なるほど!

 

人類はAIで悪魔を呼び出そうとしているのか?

住職:将棋は人類が創った最も高度な知的ゲームの1つですが、皮肉にも、その将棋が、人間が理詰めによる判断ではロボットに決して勝てないことを証明してしまいました。

── そこに感じる不安感は、自己の存在理由を脅かされるようなものでしょうか?私は将来人間が、人工知能に存在意義を脅かされるような気がしているんです。

住職:ホーキング博士も、BBC(英国放送協会)のインタュー(2014年12月2日)で、“完全な人工知能の開発は人類の終わりをもたらす可能性がある”と語っています。http://www.afpbb.com/articles/-/3033312

──そうなんですか、、。

住職:テスラCEOイーロン・マスクも、「2014 Centennial」という シンポジウムで、“人類はAIで悪魔を呼び出そうとしている”と、述べています。

──うーん、やはり、、、。

住職:一説によれば、2045年には人工知能自身が、より高度な人工知能を作り出すようになるそうです。これをシンギュラリティというのですが、そうなったら、発達にはもう歯止めがききません。そこに人間が恐怖を感じるのは当然です。

── はい、、、。

住職:たしかにテクノロジーは諸刃の剣ですから、悪魔に成り得ます。しかしお釈迦さまもキリストも悪魔と立ち向かい、これを乗り越えることで悟りを開き、また神に目覚めたのです。これからの時代、人間がいかに悪魔を乗り越えて霊性に目覚めていくかがテーマになるんです。

── へぇー、、、。

住職:ここで言う悪魔が何かについては言及しません。ただ僕たちは今、かつてないほど大きな時代の転換点にいるんです。人間が創った知的ゲームは、やがてはすべてが解析されてしまうかも知れない、と予感させる時代です。

──解析というのは何ですか?

住職:どうすれば、そのゲームに勝てるかのアンチョコができるということです。チェッカーや6マスx6マスのオセロ(リバーシ)では、すでにその解析できています。

──ゲームに必ず勝つ方法が明らかになるなんて、何だか寂しい時代、という気もしますね。

住職:まあそんな時代でも、救いがありますよ。それは、芸術や宗教などの精神文化や霊性に対して、人々はより敬意を払い、より大切にする時代になるということです。
いずれにしても、人類がさまざま判断を人工知能に頼るようになり、ロボットとどう向き合って生きるかについて、真剣に向き合わなければならなくなります。

 

人口知能の時代の脳トレ 

── 私の疑問は、”人間存在には本来、不可解さや何らかの神秘があるはず。でも人間が人工知能(ロボット)と共存した場合、それらはいったいどうなるんだろう?”というものです。また“人工知能の発達によって、人類は精神的に大きく成長しなくてはならない事態になる”という気もするんです。

住職:わかります。

── 人工知能の開発について考えると、私の中から、“ちょっと怖いな”、という気持ちと、“これは必然なんだ”という思いが、入り混じって出て来ます。ただお話しを聞いている内に、何だか興味が湧いて来ました。私まで“実際のリアルな人型ロボットと、チャトランガで対戦してみたい!”なんて思いました。

住職:チャトランガは直感と思考が融合したゲームですから、人間 vs 人工知能の試合は、人間の直感力と、AIの理詰め思考との闘いになります。人間と人工知能が人生シュミレーションゲーム、チャトランガで闘うのですから、きっとその試合は面白いものになると思いますよ。

── でしょうね!

住職:もはや人間は、あらゆる思考ゲームでコンピューターに勝てません。将棋が解析されてしまう可能性すらあります。

──うーん、、、。

住職:でも、たとえどんな時代が来ようとも、人間が人工知能に対抗できる唯一の知的ゲームとして、チャトランガは残ります。人間と人工知能の「国際チャトランガ電脳戦」(仮称)は、“人類の存在意義は何か?”を問うような意味を持つことになる、と思います。

 

未来を前提として生きる

── それにしても、住職のそのような思考や発想は、一体どこから生まれて来るのですか?

住職:未来を前提として生きているからですかねー?

──  ああ、なるほど。

住職:社会にイノベーションをもたらすような人たちは、皆、未来を前提にして活動しているんです。古いところではエジソンとかガンジーとか。また最近では、スティーブ・ジョブスとか、、、。彼らは例外なく、素早い動きで、ものごとをどんどん進めていったでしょう?
例えばエジソンの実験は、ほとんどが失敗だったけど、毎日仮眠を取るだけでひたすら実験を続けていたそうです。またスティーブ・ジョブスは、誰にも相手にされなかった頃に、大会社の重役に何百回も電話をし続けた、と聞きます。

── そうだったんですか、、、。

住職:ガンジーにとって、イギリスに植民地支配されているインドの状態は“あり得ない”ものだった。ガンジーの心の中に明確にあったイメージでは、インドは、独立している自由な国だったのです。そのイメージが、ガンジーをして不屈の独立運動の志士とさせたのです。

── 行動力ある彼らのイメージには、未来がはっきりと映っていたんですね。未来を前提として現在を観るから、まどろこしくてしょうがないんでしょうね。

住職:だからしゃかりきになって動くんです。心の中ですでに実現している未来と、まどろっこしい現在の差を、一瞬でも早く縮めようとして。
なんにせよ、ものごとを実現するのに必要なのは、行動のスピードなんですね。未来を実現していく人は、例外なく行動が早く、良いと思ったことはすぐに実行します。彼らは、”時間が生命”であることが、本能的にわかっているんです。

── 行動力ある人には、そのような心理が働いているんですね。ところで先に住職は、人間がロボットに対抗し得る唯一の知的ゲームとして残るのがチャトランガだ、と言われました。人工知能は、“悪魔というネガティブなもの”というよりも、むしろ人間の新たな精神を開発するポジティブなもの、ということなんですね。

住職:あらゆるネガティブなものは、ポジティブなものになり得ますからね。将棋やチェスなどのこれまでの知的ゲームでは、ロボットに完全に敗北することになった人間が、逆にチャトランガでは精神的に磨かれていき、また開発向上してくということです。

── 果たして人間は、チャトランガAI(人工知能)との対戦によって、どんな精神的能力が鍛えられ、また引き出されていくのでしょうか。私も何だか楽しみになってきました。

 

AIの歴史を創った人とチャトランガの関係

住職:チャトランガのコンピューター対戦やオンラインゲームを最初に構築してくれたのは、イスラエル人のアリエ・ルーディッヒという人です。
彼は、チェスの世界チャンピオンのギャリー・カスパロフを破った、ディープ・ブルーというAIプログラムを書いたチームの一員だったんです。

── へぇー! AIの歴史を創った人が、チャトランガの開発にも関わっていたんですね。

住職:今は、コンピューターの世界から完全に足を洗い、なぜかタイで坊さんになってしまいました。先日、何年かぶりに電話をくれ、今は洞窟に住んでいると言っていました。
そのアリエがかつて言っていたんですが、ゲームに偶然性の要素が盛り込まれているチャトランガは、将来のAI研究者にとって、とてもお面白いテーマになる、と。

 

理想の未来を実現する

── 先日、「初めてチャトランガをやったときに何を感じたか?」を、プレイヤーの方々から聞きました。ある人は、「今まで使っていなかった脳の部分が、活性化したような気がした」と言っていました。これはどのような意味だとお考えですか?

住職:例えば、事故のときに、極めて短時間の内に人生のいろいろなできごとを追体験する人がいますよね。その時のように、短時間の内に人生を体験するときも、日常では使わない脳の部分が働いているんです。

──そうでしょうね。

住職:近未来にやってくる人工知能の時代には、人類が今まで使っていなかった脳の部分の活性化が必要になります。そして、チャトランガで使うのは、人類が今まで使っていなかった、その脳の部分なんです。

──そうだったんですか!

住職:人工知能という短時間に大量の思考を行うツールを持つ時代は、人間にスピーディな脳内活動を要求します。チャトランガは人生の試行錯誤を、数十分という極めて短時間の内に、脳内シュミレーション体験するゲームです。

──ーはい。

住職:子どもの脳はすごいスピードで細胞分裂しているから、短時間の内に脳内シュミレーション体験するところが、チャトランガと合っているんです。

──チャトランガと子どもの相性が良いのは、そこなんですね。

住職:子どもたちは、無意識に未来を予感しています。それで彼らは、新しい時代の要求に応えるかのように、チャトランガで脳トレするんです。スピーデイな脳の動きがある子供たちには、今まで人類があまり使っていなかった脳の部分を、さらに活性化する必要があるんです。

──だから子供たちは、すぐにチャトランガを理解するんですね。

住職:一方、チャトランガには、時代を超えたミッションがあります。それは、6世紀にインドの高僧が平和のために考案した、Chatraunga (古代チャトランガ)の精神を結実させることです。すなわちチャトランガによって、世の中に平和をもたらし、人々の無意識に大乗仏教の哲理を浸透せしめ、人々が心の自由性を獲得する、ということです。。

──それは、素晴らしい。

住職:歴史学者トインビー(Toynbee,1889~1975)は、人類の将来を聞かれ、次のように答えています。”歴史家は過去のことは語るが、未来は語らない。もし二十一世紀に、どのような人間が要請されるかという質問になら答えられる。それは大乗仏教の精神です”、と。

──そうだったんですかー!

10 Arnold J Toynbee

 

 

 

<アーノルド・J・トインビー>

住職:大乗仏教では「過去現在未来は、すべて今ここにある」と言います。その「今ここ」はどこか? それは、理想の未来の実現のために行動する、一瞬の“心の輝き”の中です。その心の輝きこそが、理想の未来を実現するんです。

ー完ー